2011年 04月17日(Sun) [長年日記]
_ [その他]4・16事件
この記事は事件(4/16当日)から約一週間で書き上げたものだが、おそらく公開されるのは早くて1,2年後であると思われる。それまでは非公開とされていて、ほとぼりが冷めたと判断された時、誰にも知らされずひっそりとこの日付に記事が現れる事になる筈だ。すなわち今この記事を読んでる人は、きっと過去ログでも読んでみようかなと思った物好きな人だったりするのだろう。
さて、いつ誰に読まれるかも分からない前口上はここまでとしよう。ここから先が本題だ。
この事件の始まりをいつからと定義して良いのか良く分からない。ずっと昔からじわじわと進行していた類のものだからだ。だがあまり昔の事を語っても意味がないので、とりあえずA氏が自分のWeb日記の中で死にたいと書き記した日をスタート地点とすることとしよう。
A氏が死にたいと書いたのはA氏の嫁さんであるB子が、A氏よりも好きな人ができたからA氏と別れたいと言っていた事に起因する。でもA氏はB子の事が好きだから別れることができないという話らしい。とはいえその書きこみを見た当時、私は書き込みをそこまで気にしてはいなかった。数年前からA氏とB子の間がイマイチ上手くいっていない事は風の噂で知っていたもの、A氏自身が私に一度も相談を持ちかけた事が無かったので知らないふりをしていたのだ。寧ろ積極的に無関心を装っていたぐらいである。
A氏はC氏に良く相談を持ちかけていたようである。C氏はA氏と私の共通の友人で、良く一緒に遊ぶ仲だった。A氏にとってC氏は最も年の近い年上で、相談しやすかったのかもしれない。
ともあれA氏が死にたいと書いた次の日あたりにC氏から私にメールが届いた。メールにはA氏の相談相手になったり、気晴らしの相手になってあげてくれないかといった事が書いてあった。その後C氏と少しやりとりをして、どうやら日記を書いた日もA氏はC氏に電話して相談していたらしい事が分かった。
ただメールを貰ってなお、私は積極的に動くつもりは無かった。一番の理由は外から強引に首を突っ込むべきかどうか分からなかったからだ。私の持論として相談されれば力を貸すが、そうでなければ基本的に関わらないようにしている、という理由もあった。相談しないという事は関わって欲しくないという意思表示かもしれないからだ。
まあC氏から頼まれた義理もあるし、一度適当に探りを入れてその反応を確かめれば良しとするか。と、その時は思っていたのだ。
しかしここから3日後、事件は急展開を迎える。
その日の夜、家でゴロゴロとゲームをしていた私にC氏からメールが届いた。内容は「明日A氏に会いに行ってくれませんか。朝方までA氏と飲んで話す予定だけど、どうなるか検討がつかない。今からA氏を死にそうなくらい傷つけるから…」というものだった。
これは一大事だ! この時点になってようやく私は事が思いの外大きくなっている事に気がついた。
完全に巻き込まれた形な上、C氏の思惑に乗せられている点が少し癪に障ったが、そうも言ってはいられない。ただメールが来たから仕方なく動くというのではなく、自分の意志で関わるのだという気持ちを込めて、とりあえずTwitterに「情報が足りないと作戦の立てようが無いな。ふむ、どうするか。」とだけ書き込んだ。
実はこの時もう一つ、「俺、あいつを思いっきり殴っても許されるよね?」と書きこもうかとも考えたのだが、この時点では確証が何も無いので止めておいた。
さて、動くと決めたからには情報収集だ。確かD氏は昔A氏と飲みに行った時にB子の話を聞いた筈だったな。と、D氏に電話してみる事にした。
が、これは全然上手く行かなかった。D氏は思ったより口が硬かったのだ。いくつかアプローチを変えて情報を得ようとしてみるも、知らぬ存ぜぬの一点張り。もちろん普段なら美徳なのであろうが、今この時はその美徳が足を引っ張ってしまっている。
挙句の果てに「(A氏の事は)あまり気にしなくても良いと思うよ」と言われてしまい、「いやそういうわけにもねぇ……」と言葉を濁す羽目に。こちらも情報が足りない以上、滅多な事は言えない。とりあえず場合によっては明日呼び出す可能性を考え、スケジュールに空きがある事だけは確認して電話を切る。
こうなると出たとこ勝負にならざるを得ないな。と、ため息をついていたら、すぐにD氏から折り返し電話が入ってきた。どうやらA氏からB子、C氏と飲んでいる店に今すぐ来て欲しいと連絡があったらしい。今からE氏(全員に共通の友人)も連れて向かうけど、ねくろんさんも行く? との事。
もちろん二つ返事をして電話を切る。この時点でもう日付が変わっていた。Twitterに「あーいろいろ予定が変わった。まあ良いや。」と書いてから居酒屋へ向かった。
居酒屋ではA氏とC氏、そしてB子で飲んでいたようだ。どうもA氏は激しく混乱している様子だったが、その理由はすぐに分かった。着いて早々、B子の隣に座っていたC氏がこう発言したのだ。
「俺、A氏からB子を奪おうとしている。」
何とも言えない空気に包まれる個室。とりあえず、D氏やE氏がC氏達に質問をする。
「(C氏は)結婚してたよね?」 「もちろん離婚する。そしてA氏とB子にも離婚してもらいたい。」
「いつから付き合ってんの?」 「2年前ぐらいから。」
何が酷いってA氏がずっとB子の事を張本人であるC氏に相談していたという事。昼ドラかよ。
何と言うかいつかバレるにしてももう少し良いタイミングがあったのではないかとも思ったが、どうやらA氏がB子と別れることを全く了承しないままずるずると時間だけが経ち、C氏の事を隠しておく事に耐えられなくなって、こんな状況になったようである。
状況を確認し終わると、後はずっと気不味い雰囲気だけが場を支配した。どう考えてもこれ以上この場で話が進展するとは思えない。かと言ってさすがにこのまま朝まで過ごすのは御免被りたい。
じゃあこの状況をどう打開するかと考える私。何か話をしようにも、傍目から見ると戦況は完全に詰んでいて、私としてはA氏に「B子なんかとこのまま一緒にいてもメリットは無いよ」と諭すぐらいしかできないのだが、それは二人きりの時に言う話であって間違ってもC氏やB子の前で話す内容ではない。
一瞬A氏だけ連れ出して別の店で、とも考えたが、D氏、E氏、C氏、B子の四人を残すのはD氏やE氏が可哀想だった(彼らはC氏やA氏よりも年下だったし)ので却下した。むしろB子とC氏を帰したいところだったが、A氏の心情を考えると二人で帰すなんてありえないだろう。かと言ってこのまま全員解散では混乱状態のA氏が心配だ。
仕方ない。私が直接A氏をフォローするのは今回は諦めよう。また別の機会があるさ。そう考えた私は、とりあえずB子を帰宅させ、「C氏を借りていくね」と言ってC氏を連れて店を出た。店にはA、D、E氏の3人が残り、私とC氏は別の店で飲む事となった。
別の店に行って開口一番私はこう言った。「別にお前が誰を好きになろうが、誰から奪い取ろうが、俺は興味がない」と。実際、私も多少なりともそういった経験があるので、他人の彼女を奪い取ったという点について責める気は全くなかった。
ただし私は続けてこうも言った。「でも、やり方が汚いよな」と。さすがに信頼して悩みを打ち明けてた友人を騙していたのは汚いと言われても仕方がないとは思う。とはいえ私がC氏に対して怒っているのはこの点でもなかった。それはA氏とC氏の間での問題であって、冷たいようだけど私には関係の無い話だった。
ちなみにC氏も私が何に対して怒っているか把握していないようだった。実はさっきの店で一度、「俺に対して謝る事はないのか? お前は(A氏だけでは無くて)俺をも騙そうとしていたんだよな?」と聞いたのだが、その時C氏は「無い」と答えた。C氏がやったことに対して今ここで引くわけにはいかないという決意の現れであったとは思うが、その答えは同時に私の怒りを正しく理解していない事を私に確信させた。まあ私も詳しく説明していないし、その気も無かったので、その時は「そうか」と言って会話を打ち切ったのだが。
そして次の話題は上記のやりとりについての話となった。C氏は(覚悟を決めてやった事だし)「あそこで謝る事はできないよ」と言った。それに対して私は次のような事を言った。「そうじゃない。例えばお前は俺に相談するという選択肢があった筈なんだ。確かにA氏を騙していたのは間違いない。だからと言って俺を含めた他の友人をも騙すというのは別の問題だろう」。
もちろんC氏は覚悟を決めていた事だろう。こんな事をしてはA氏との仲が修復不可能になるのは当たり前だし、そうなると私や他の友人とも二度と会えなくなる事は容易に想像ができる。しかし、もう会わないから嫌われても構わない。というのと、もう会わないから信頼を裏切っても構わない。というのは全然違うという事にC氏は気がつかなかったのだ。それを私は怒っていたのである。
C氏は私の言葉を聞いた後、「ごめん」と言った。そしてそれからしばらくずっと泣いていた。
C氏が泣き止んだ後、(C氏視点での)事件のあらましを最初から聞いた。正直なところそんなに興味があるわけでは無いが、A氏のこれからのフォローの役には立つだろう。話を聞く際に注意したのは、その話を誰が知っているか? 誰が知らないか? という点だった。デリケートな話なので知らない人間に話が漏れることも防ぎたかったし、事実と憶測を切り分ける上でも必要な作業だった。
なお話を聞いて一つだけ驚いた点がある。B子と関係を持った人物の中に、A氏、C氏、私の知人で良く遊ぶ仲間であった(ここまで一度も登場していない)F氏が出てきた事だ。おいおい、NTR(分かんない人はぐぐれ)の話かと思ったらサークルクラッシャー(分かんない人は以下略)の話だったのか! と思ったが、賢明にもその場では言わなかった。もう自分以外全員舞台に上がってても驚かないぞと密かに思ったものの、それは今となっては分かるまい。
こうして一連の事件は終わりを告げた。もちろんこの後には長い後始末が残っているが、それは当人同士で解決するしかない話であろう。私に出来ることはA氏が立ち直るのをほんの少し手助けする事だけだろう。
以上が4・16事件のあらましだ。私にとっては友人が傷ついた話であり、友人が去っていった話でもある。そしてもう少し早く動けていれば、違う結末があったかもしれない、そんな事件だったように思う。